DOCTOR'S COLUMNドクターズコラム

2023.09.01

二重埋没

瞼板法と挙筋法について

Dr Kuroda

今回は埋没法についての続きです。
埋没法について正しく理解するには多少なりとも解剖の知識が必要なので、前回のコラムを未読の人は先に目を通してから読んでいただくことをオススメします。
https://ro-clinic.com/doctors_column/9418/

前回のおさらい

埋没法をざっくりと分類すると、「瞼板法」か「挙筋法」に分けられます。

埋没法は、目を開ける際に奥に引き込まれる組織の動きを糸によって二重ラインの皮膚に伝える手術でしたね。
「瞼板法」は、筋肉の動きを瞼板を介して間接的に二重ラインの皮膚に伝えます。
「挙筋法」は、筋肉の動きを直接的に二重ラインに伝えます。
ここまでは、前回の内容のおさらいです。

それぞれの方法の特徴を比べながら説明していきましょう。

瞼板法・挙筋法の特徴

最初にお断りしておきたいのが、瞼の腫れやすさや埋没法の取れにくさは瞼の厚みや希望の二重幅の影響が大きいです。瞼板法か挙筋法かの違いはそれらの影響に比べると小さいですが、右目と左目でそれぞれの方法で手術をした場合の差、として考えて下さい。


・ダウンタイム
一般的には、挙筋法の方が瞼板法よりも術後の腫れが少ないです。挙筋法では、埋没糸をふわっと結び、多少の遊びを持って筋肉の動きを皮膚に伝えます。一方、瞼板法は挙筋法に比べるともう少しキュッと埋没糸を結んで瞼板の動きを皮膚に伝えます。組織を締め付ける糸の張力が少ない挙筋法の方が腫れが引くのが早い印象があります。
ただし、挙筋法でも腫れが強く出てしまうケースもあります。挙筋法はミュラー筋という筋肉の中を糸が通ります。ミュラー筋の前面には太めの血管があるので、運悪く針先が血管に当たってしまうと瞼板法よりも腫れてしまうことがあります。瞼板にはまつ毛の生え際付近以外には大きな出血を起こす血管がないので、ひどい出血が起きる可能性は低いです。


・取れにくさ
挙筋法はゆるく結んだ糸が目を開けるたびに筋肉の動きを皮膚に伝えて奥に引き込みます。目を閉じた時には食い込みが目立ちにくく、開けると天然の二重のようにダイナミックに二重になります。
瞼板法はある程度しっかり皮膚と瞼板が固定されており、筋肉の動きは瞼板を介して間接的に皮膚に伝えられます。
糸を筋肉でグイグイと引っ張るのと、そうではないのをイメージしてみて下さい。どちらの方が緩みやすいでしょうか?一般的には、挙筋法よりも瞼板法の方が、同じ二重ラインで作成した場合には取れにくいです。ちなみに、埋没の糸が切れてしまうケースはほとんどありません。埋没が緩んでくるケースというのは、糸が組織から外れてくると起こります。


・向いている二重幅
一般的な二重の幅であれば、どちらの方法でも構わないと思います。ただし、奥二重のような狭い二重を希望する場合には、挙筋法では広めの仕上がりになってしまうケースがありますので、瞼板法の方が作成しやすいです。逆にかなり広めの二重幅を希望される場合には、挙筋法が適しています。瞼板法では瞼板よりも広い二重を作成することが難しいです。瞼板の縦幅は日本人では8~12ミリと言われており、瞼板が小さい場合や希望の二重幅が広い場合には瞼板法では対応できないケースがあります。


瞼板法・挙筋法のリスク

さて、ここからは「瞼板法」「挙筋法」のリスクの説明になります。
埋没が緩む、予定の二重幅にならない、左右差といった一般的によく知られているリスクについては今回を省かせて頂きます。わざわざ小難しい活字を読んで下さっている人に向けた、もっと深掘りしたリスクについての話になります。


・「瞼板法」のリスクその1:瞼板の変形
瞼板法で糸を結ぶ際に、強く締めつけると瞼板が変形します。瞼板の大きさや厚みは個人差がありますから、術者は患者様ごとに緩みにくく瞼板が変形しない強さで糸を縛る必要があります。通常は瞼板の変形に配慮しているので大丈夫ですが、糸の締め付けが強かったり瞼板が弱かったりすると瞼板が変形してしまいます。
瞼板が変形すると何が困るのでしょうか?瞼板は眼球の丸みに合わせた形をしていて、瞼を開けたり閉じたりするたびに、眼球に沿って滑らかに上下運動しています。瞼板の歪みが生じると眼球と瞼板が密着しないので、違和感を感じたり眼球に傷がついたりする可能性があります。


・「瞼板法」のリスクその2:角膜損傷
開発当初の瞼板法に比べて現在は結膜側に糸が露出しにくい方法が採用されています。正しい方法で行えば結膜側に糸が露出する可能性は決して高くはありません。仮に結膜側に糸が露出してしまった場合には、瞼を開け閉めするたびに糸が目玉を擦ることになりますので角膜を傷つけてしまう可能性があります。目にホコリが入っただけでも違和感を感じますから、糸が露出した場合には何らかの自覚症状があるかとは思います。もし瞼板法で手術を行なったのちに違和感が続く場合には、手術をしたクリニックか眼科でチェックしてもらう必要があります。



・「挙筋法」のリスクその1:眼瞼下垂
挙筋法は、糸が目を開ける筋肉の動きを妨げてしまうことがあります。挙筋法を受けた後に目の開きが悪くなってしまった場合は、埋没法の影響かもしれません。埋没糸の影響によるケース以外にも、局所麻酔の影響や術後の腫れで一時的に目の開きが悪くなっているケースもあります。腫れがしっかりと引いているにも関わらず目の開きが悪いままの場合には、埋没法による眼瞼下垂の可能性を疑う必要があります。
もし埋没法による眼瞼下垂が生じてしまっても、早期であれば糸を抜去すれば元に戻る可能性が高いです。埋没法から数年経過していても、切開二重の際に埋没法の糸を抜去すると目の開きが良くなるケースも時々経験します。ただし糸による影響を長期間放置すると、埋没糸を抜去しても目の開きが戻らない可能性もあるので注意が必要です。


・挙筋法のリスクその2:眼瞼けいれん
埋没法の最初のコラムで、少し細かい解剖について触れたことを覚えていますか?挙筋法の糸は、正確には眼瞼挙筋腱膜とミュラー筋を通過します。このミュラー筋というのが中々の曲者です。ミュラー筋に手術操作が加わると眼瞼けいれんという症状が出てしまうことがあります。眼瞼けいれんと聞くと、瞼がピクピクするイメージが浮かぶかもしれませんが、それ以外にも症状はあります。何だか目が開けにくい感じがする、眉間に力が入る、まばたきが多くなる、光が眩しく感じるなど、眼瞼けいれんと気が付かれにくい症状が出ることもあります。患者様だけではなく、術者ですらその症状が眼瞼けいれんであると気が付いていないケースもあると思います。
眼瞼けいれんの厄介な点は、糸を抜去しても治らないケースが多いことと、眼瞼けいれんの治療を出来る医療機関がかなり限られているということです。
気をつけて手術をすれば眼瞼けいれんは避けられるという種類の合併症ではないため、挙筋法で行う場合には確率として低いですが常に付きまとうリスクと言えます。


まとめ

今回は長くて難しいコラムでしたね。
おそらく多くのクリニックでは、限られたカウンセリング時間の中でここまで詳細にリスクなどの説明をすることはないと思います。私自身も、二重幅の打ち合わせやダウンタイムの話をしていると、今回コラムで解説した内容ほど細かく説明することは難しいのが実情です。

こんなコラムを読んでしまうと「埋没法って怖いっ」て感じる人もいますよね。
埋没法は最も多く行われている外科手術ですし、開発されてからの長い歴史があります。リスクについて知ることは大切ですが、必要以上に恐れる必要はないと思います。外科手術の中では安全性が高く比較的手軽に受けられる手術ということに変わりはありません。

さて、埋没法の話題は、まだ続きます。
次回のコラムでお会いしましょう。

最後までお読み頂きありがとうございました。

副院長 黒田大樹
#ドクターKの深掘り解説シリーズ

この記事の監修者

副院長

黒田 大樹

OHKI KURODA

2005年に信州大学医学部を卒業し2年間の初期研修医を修了後、形成外科医局として全国で最大規模の昭和大学形成外科に入局。形成外科医として11年間研鑽を積んだ後に、美容外科を専門として現在に至る。