DOCTOR'S COLUMNドクターズコラム

2024.05.31

その他

唇の真皮脂肪移植

Dr Kuroda

唇の厚みを薄くする方法には口唇縮小という手術があります。唇を紡錘形に切り取って縫合する比較的シンプルな手術です。唇は伸びる組織なので切除して縫合した際にどの程度のボリュームになるのか予測が難しいパーツです。

口唇縮小は経験の浅い医師でも手を出しやすい手術ではあるのですが、時に過剰な切除による合併症が生じるケースがあります。唇だけでなく人中短縮や鼻翼縮小など切り取ってサイズを小さくする手術の場合には、控えめに行わないと修正が難しくなるので注意が必要です。

薄い唇を厚くする方法として

・ヒアルロン酸注入
・脂肪注入
・真皮脂肪移植

があります。

他にも唇裂などで部分的にボリュームが足りない場合には皮弁法を用いることがありますが、美容目的で行うことは稀なので今回は取り上げません。

ヒアルロン酸注入によるボリュームアップはダウンタイムが無くて形の調整も容易です。人中を短く見せるように注入したり口角が上がって見えるよう注入するなど自由度が高く、美容目的の場合にはヒアルロン酸注入をお勧めすることが多いです。

脂肪注入は太ももなどから採取した脂肪を唇に移植する方法です。ヒアルロン酸と異なり生着した脂肪は半永久的に残りますが、唇の場合の移植脂肪の生着率は10~20%程度と言われています。希望するボリュームにするためには複数回の注入が必要となることが多く、ヒアルロン酸のように細かなデザインは難しいです。すでにヒアルロン酸による口唇増大の経験があり、半永久的に口唇の増大を希望する場合に行っています。

真皮脂肪移植は真皮と脂肪を一塊に採取しサイズを加工して移植する方法です。真皮と脂肪の間には真皮下血管網という毛細血管があるため脂肪のみを移植するよりも生着が良く、唇の真皮脂肪移植の生着率は30~50%程度と言われています。下の写真は移植する前の真皮脂肪を表面と裏面をそれぞれ上に向けて置いている状態です。白っぽいのが真皮、黄色っぽいのが脂肪です。

話は口唇縮小の合併症の話に戻ります。

口唇縮小で唇が薄くなりすぎてしまった場合には真皮脂肪移植が第一選択です。手術後の唇は表面から見て傷跡こそ目立ちませんが中身は瘢痕という固い組織になっています。ヒアルロン酸では硬い瘢痕の中に注入しても思うようにボリュームが出ません。脂肪移植でも良いのですが薄くなりすぎてしまった唇のボリュームを回復させるためにはかなりの回数の脂肪注入が必要となります。ですから、一回の手術でボリュームの回復が期待できる真皮脂肪移植がもっとも適した方法となります。

実際の症例写真をご覧ください。

他院で口唇縮小を受けたところボリュームが減りすぎてしまい、力を入れていないと常に口が半開きになっている状態でした。

手術直後の状態です。足の付け根から真皮脂肪を採取して上下それぞれの唇に移植しています。唇が白いのは局所麻酔による血管収縮の影響による一時的なものです。

術後6ヶ月が経過した状態です。口元の力を抜いた状態でも術前に比べて歯の露出が大幅に改善しています。

このように真皮脂肪移植では一回の治療で大幅にボリュームの改善が期待できます。

真皮脂肪移植の欠点としては真皮脂肪を採取する部分に傷が残ることです。通常はお尻の割れ目か足の付け根から採取し採取部は縫い縮めます。下着で隠れる部位に傷跡が来るようして形成外科的に丁寧な縫合をすればさほど傷跡が目立つことはありません。

唇は柔らかい組織なので移植した組織の硬さが6ヶ月程度は持続しますが、腫れている感じは2~4週間程度で収まってきます。

口唇縮小を行っているクリニックは沢山ありますが、合併症が起きた時に真皮脂肪移植で修正してくれるクリニックはそれほど多くないようです。真皮脂肪移植はリスクの高い治療ではありませんが、移植部の準備や真皮脂肪の固定方法、組織採取部位の丁寧な縫合など形成外科的な基本手技が必要な手術ではあります。

口唇縮小の術後で悩んでいる方がおられましたら是非当院にご相談下さい。

副院長 黒田大樹

#ドクターKの深掘り解説シリーズ

この記事の監修者

副院長

黒田 大樹

OHKI KURODA

2005年に信州大学医学部を卒業し2年間の初期研修医を修了後、形成外科医局として全国で最大規模の昭和大学形成外科に入局。形成外科医として11年間研鑽を積んだ後に、美容外科を専門として現在に至る。