DOCTOR'S COLUMNドクターズコラム

2024.02.16

二重切開

上まぶたたるみ切除

予定外重瞼線

Dr Kuroda

予定外重瞼線(よていがいじゅうけんせん)をご存知でしょうか?

二重手術の術後合併症のひとつで、予定していた二重ラインとは別の幅広いラインで皮膚が折れてしまう状態のことです。医療者は予定外重瞼線と呼びますが、一般の方には三重(みえ)の方が耳慣れた呼び方かもしれません。予定外重瞼線が生じてしまうと予定していた二重ラインにまぶたの皮膚が被さってこないので、二重にならないという困った事態になってしまいます。

百聞は一見に如かず、ということで予定外重瞼線が生じてしまった症例の写真をご覧ください。

術後1週間目の抜糸後の状態です。予定外重瞼線が生じており、予定していた二重ラインでの二重が出来ていません。

予定外重瞼線が生じるには以下のような原因があります。

予定した二重ラインでの食い込みが弱い

二重の手術は、眼球に沿って引き込まれる眼瞼挙筋の力を皮膚に伝える手術です。予定した二重ラインで皮膚が引き込まれるように内部処理で癒着を作成するのですが、その癒着が不十分だと食い込みが弱くなります。眼瞼下垂があって瞼を開ける力が弱い場合にも、予定した二重ラインでの引き込みが不十分となることもあります。手術直後はまぶたの腫れによって目の開きは一時的に悪化するので、眼瞼下垂が無くとも予定外重瞼線が発生することもあります。予定ラインの食い込みが弱いと、まぶたの皮膚が勝手気ままに折れてしまうことがあります。埋没法を受けた二重が緩んでくると、広いラインで折れクセが生じることがあるのも同じ理屈です。

眼窩脂肪が少ない

眼窩脂肪はまぶたの深い部位にある脂肪です。この脂肪は眼瞼挙筋がスムースに滑走する為の潤滑剤としての役割があります。眼窩脂肪が少なかったり手術で取りすぎてしまったりすると、目を開ける筋肉の動きが予定していたライン以外にも伝わってしまい予定外重瞼線の原因となることがあります。

切開ラインより眉毛側の眼輪筋を取られた

眼輪筋は皮膚のすぐ下にある厚みのある組織です。その眼輪筋がなくなってしまえば皮膚はペラペラの状態になるので、切開線より眉毛側の眼輪筋を切除してしまった際には予定外重瞼線が生じる可能性は高くなります。切開ラインより眉毛側の眼輪筋を温存することは美容外科医にとっては基本中の基本です。しかしながら意図せずして眉毛側の眼輪筋を切除してしまうことはありがちな失敗です。皮膚切開を加えた直後の眼輪筋は局所麻酔で腫れている状態です。腫れている状態で眉毛側の眼輪筋を温存したつもりでいても、局所麻酔による腫れが引いた時には切開ラインよりも眉毛側の眼輪筋が温存出来ていなかった、ということはあり得ることです。

まぶたの皮膚が薄い

まぶたの皮膚の厚みには個人差があります。まぶたの皮膚が薄い人は幅の広い二重が綺麗に作成しやすいメリットがある一方で、予定していない部位で皮膚が折れやすいというデメリットがあります。まぶたの皮膚が薄い人の場合には、眼窩脂肪を取らない、切開ラインより眉毛側の眼輪筋を確実に温存する、といった原則を徹底する必要があります。

眉毛挙上のクセが強い

綺麗な二重となる為には予定した二重ラインが引き込まれることに加え、そのラインより眉毛側の皮膚が被さってくる必要があります。何らかの理由で眉毛を上げるクセが強い場合には、眉毛側の皮膚が予定ラインに被さってこないために綺麗な二重にならず、予定外重瞼線の原因となることがあります。

このように予定外重瞼線が生じる原因は一つではありません。これらの原因が複数関与していることもあります。予定外重瞼線は嫌なものですが対処法はあります。

手術直後に予定外重瞼線が生じそうな場合には「袋とじ縫合」という特殊な縫合を行います。予定している二重ラインで確実にまぶたが折れるよう皮膚を谷折りにする縫合をします。この縫合を行えばかなりの確率で予定外重瞼線の発生を予防出来ます。切開二重の術後にルーティンで袋とじ縫合をしているクリニックもあるようです。

袋とじ縫合にはまぶたに糸の跡が残りやすいというデメリットがあります。袋とじ縫合を行った場合には、術後3日目を目安に袋とじ縫合を抜糸します。3日間程度の袋とじ縫合であれば糸の跡が残ることはほぼありません。術後3日目の来院が難しい遠方からお越しの患者様の場合には、術後7日目の抜糸まで袋とじ縫合をしたままにすることもあります。その場合でも1ヶ月程度で糸の跡はほぼ消えているようです。

手術直後に、予定外重瞼線が生じそうだけれども袋とじ縫合をする程でもないかな?という微妙なケースもあります。その場合には、予定外重瞼線になりそうなまぶたの皮膚に数日テープを貼っておくだけでも予防効果はあります。

抜糸の時点で予定外重瞼線が生じている場合には「吊り上げ固定」という処置を行います。これは埋没法で用いる糸を使用して、予定ラインで折れるように皮膚に折れクセを作成します。吊り上げ固定をすると、まぶたが完全には閉じられない状態になります。日中はこまめに目薬をして、夜間の就寝時には眼軟膏を塗布して眼球を乾燥から保護する必要があります。患者様にはストレスのかかる処置となりますが、1週間ほど吊り上げ固定を行えば予定外重瞼線の9割以上は治すことが出来ます。

これは吊り上げ固定をした状態の写真です。眉毛の中に吊り上げしている糸の一部が見えていますが眉毛に紛れてしまうので目立ちません。このように閉瞼時には完全にはまぶたが閉じることが出来ない状態になります。

「袋とじ縫合」や「吊り上げ固定」が絶対に必要な処置かと言われれば、実は自然に改善してしまうケースの方が多いです。

この症例の方は抜糸の時点で予定外重瞼線が生じかけています。特に処置はせずに経過観察としましたが、腫れが引くにつれてまぶたの開きが改善し予定外重瞼線は無くなりました。

カウンセリングの時点で予定外重瞼線のリスクが高そうだ、と判断した患者様には袋とじ縫合をする可能性をお伝えしています。予定外重瞼線は時々ある合併症ですが、その大半は修正手術をしなくとも対処できるので必要以上に心配しなくとも良いと思います。

副院長 黒田大樹

#ドクターKの深掘り解説シリーズ

この記事の監修者

副院長

黒田 大樹

OHKI KURODA

2005年に信州大学医学部を卒業し2年間の初期研修医を修了後、形成外科医局として全国で最大規模の昭和大学形成外科に入局。形成外科医として11年間研鑽を積んだ後に、美容外科を専門として現在に至る。