2024.02.23
その他
失敗の基準
「手術の失敗の基準ってどうなっていますか?」
「失敗かどうかは誰が判断するのですか?」
「修正手術をするかどうかの判断は?」
「機能障害が残った場合の補償は?」
カウンセリングで質問にお答えしていると、最後に聞かれることがある質問です。
聞き方によっては不躾な印象を与える質問なので、本当は聞きたいけれど遠慮して聞けない患者様もいらっしゃるかも知れません。
結論から申し上げると
「手術が成功か失敗かは患者様が判断すること」です。
結果に満足して頂けていれば成功、満足して頂けていなければ失敗です。
もちろんある程度の客観的な判断基準は設けることが出来ます。
・シミュレーションや説明した形態になっていること
・左右差が許容範囲内に収まっていること
・再出血による血腫や創部感染などの合併症を生じていないこと
・標準的なダウンタイムの期間で完成すること
・傷跡が目立たないこと
・機能的な合併症が生じないこと
などなど
これらの項目が全て満たされていれば、概ね成功と言って差し支えないと思われます。
しかしながら、シミュレーションと寸分違わぬ形態を手術で作り上げることは困難です。完全な左右対称というのも神の領域です。いや、神様だって人間を左右対称には作れませんでした。左右差や傷跡の許容範囲は患者様によって違います。
医師が手術結果に問題がないと感じていても、患者様から修正を希望されるケースはあります。逆に医師から修正を提案しても、「気になっていないので大丈夫です」と修正を希望されない患者様もいます。
修正手術をするかどうかの判断については、患者様が気になる点がある場合には一見些細な点であっても積極的に修正手術を行なっています。当院での修正手術のハードルはかなり低く設定されていると思っています。他院では「気にしすぎ」「このくらいの左右差は同意書にも仕方がないと書いてある」「いつかよくなるから様子を見ましょう」と言われるような内容でも、修正を行うことによって改善する余地があれば修正をお断りすることはまずありません。
例外はあって、「あと0.1ミリ狭く」など技術的に不可能な要求をされる場合には修正手術をお断りすることはあります。他院修正など短期間に手術を繰り返すことにリスクが高いケースなどでは、直ぐの修正手術は行わずに検診でフォローアップすることもあります。
機能障害については内容次第となります。
例えば、二重手術後に目の開きが悪くなってしまったケースでは修正手術で改善できる可能性は高いでしょう。ヒアルロン酸が血管内に入ってしまって失明してしまったとしたらどうでしょう?非常に稀な合併症ですが可能性はゼロではありません。この場合には修正手術で視力を回復させることは困難ですから、金銭的な補償の話になるでしょう。死亡事故などで重大な過失があれば金銭的な保障に加えて医師が刑事責任を問われることもあると思います。
機能障害が起きるほどの合併症はアクシデントなので予想が出来ません。ですから術前に「機能障害が残った場合の補償は?」と聞かれても、「それぞれの事象に誠実に対応します」とお答えするしかないのが実情です。
「手術中にもし大地震が来たらどうなりますか?」
これは本当に患者様から聞かれた質問です。
私たちはびっくりするような質問を時々されます。ですが手術中に大地震が起こる可能性もゼロではないですよね。
2011年に発生した東日本大震災のとき私は福島県で勤務をしており、地震が発生した14時46分は頭部腫瘍切除の手術を執刀している最中でした。立っていられない程の激しい揺れが数分間続き、手術室は停電で暗闇になりました。揺れが収まるまでの間は、看護師を手術台の下に避難させて私は手術台に横になっている患者様の上に覆い被さっていました。非常用電源が作動して明かりがついてから、外の状況は全く分からない中で最後まで手術をやり遂げました。
この質問をした患者様が単なる心配性なのか、それとも過去に何か辛い記憶があるのかは分かりません。しかし先ほどのエピソードをお話しして、そのような事態があっても全力で対応することをお約束して安心して頂きました。
恐らく、コラム冒頭の質問をする患者様も安心が欲しいのだと思います。SNSなどで情報を集めれば集めるほど成功例よりも失敗例の方が目を引きますから、誰だって手術を受けるのは不安になります。
手術や施術にリスクがないものはありません。ですが美容外科医は日々リスクを減らす努力をしています。それでも手術結果にはある程度のブレが出てしまうのも現実です。ですから私たちは失敗の判断は患者様に委ね修正手術のハードルを下げることで、少しでも安心して治療を受けて頂きたいと考えています。
副院長 黒田大樹
#カウンセリングでよくある質問シリーズ
この記事の監修者
副院長
黒田 大樹
OHKI KURODA