DOCTOR'S COLUMNドクターズコラム

2024.02.02

その他

すごいぞ!ミラドライ

Dr Kuroda

突然ですがあなたはワキ(腋)の臭いが気になりますか?

自分の臭いは気にならないし家族や友人にも臭いの気になる人はいません、という人の方が多いかもしれません。

世界的に見るとワキの臭いが少ないというのはアジアの一部地域のみの少数派です。

欧米や中東では腋臭は生理的なものとみなされています。だからこそ、デオドラント文化が成熟したとも言えるかもしれません。

日本人の腋臭症(いわゆるワキガ)の比率は約1割、10人に1人です。

腋臭症の人は少数派だからこそ当事者にとっての悩みは深く、学校生活や社会生活に影響を与えることがあります。

腋臭症の原因となるのは、アポクリン汗腺という皮下にある管です。

ワキ以外にも、外耳道、乳輪部、外陰部にもアポクリン汗腺は存在し、腋臭症の人はアポクリン汗腺の数が多くなっています。

アポクリン汗腺は思春期以降に発達するので、小学校高学年くらいになると悩みを抱える人が出てきます。

実はアポクリン汗腺から出る汗自体は無臭です。ですが皮脂と合わさり皮膚の常在菌で分解されることでチリソース臭や雑巾臭などと表現される特有の臭いを放つようになります。また、臭い以外にも、汗の色素が衣類の黄ばみを生じさせることで悩むこともあります。

ワキの臭いは気にならないけれどワキ汗は気になります、という人もいらっしゃるかもしれません。体温調節のために汗をかくことは生理的なことですが、日常生活に対する悪影響があるほどのワキ汗は生活の質を低下させることになります。

汗はエクリン汗腺という真皮深部にある管から分泌されます。エクリン汗腺はアポクリン腺とは異なりほぼ全身に分布しており、数は成長期になっても増えません。

腋臭症、多汗症ともに程度が強ければ生活の質を低下させます。

治療方法としては、制汗剤などの外用薬、抗コリン外用薬、抗コリン内服薬、抗精神薬内服、ボトックス注射、外科的治療などから症状や希望によって選択することになります。

半永久的な改善を求めるのであれば外科的治療を検討する必要があります。

私が医師になった約20年前は腋臭症の外科的治療といえば、剪除法(せんじょほう)でした。

ワキに1~2本の切開を加えて、アポクリン腺やエクリン腺を目で確認しながらハサミで除去していく治療です。大変なのは手術後で、血腫予防のためにワキにガーゼの束を糸で縫い付けます。さらに創部の安静のためにワキを圧迫するバンドを装着してもらっていました。腕や肩を動かすことに制限がかかりますから、一人で着替えをすることも難しいので入院治療が一般的でした。傷跡も剪除法の問題点です。とても綺麗に治る人もいる一方で、傷跡が目立ったり皮膚が傷んで色素沈着をしたりする人もいます。臭いが改善すれば傷跡はある程度は仕方がないよね、という手術の印象でした。

そんな状況に革命を起こしたのが2010年にアメリカからやってきたミラドライという黒船でした。

ミラドライとは、エクリン汗腺とアポクリン汗腺が存在する真皮深部~皮下にマイクロ波で熱損傷を与えて半永久的に汗腺の働きを抑える治療機器です。傷跡は残りませんし術後の安静や入院も不要です。

日本の厚生労働省に相当するFDA(アメリカ食料医薬品局)では、腋臭症、腋窩多汗症、腋毛の減少の適応で承認を取得しています。日本国内では、重度のワキ汗に対して薬事承認を取得しています。

通常の経過では内出血や浮腫みや痛みが数日ありますが、日常生活に制限はありません。稀な合併症として、腕神経損傷に伴う神経障害のリスク(上腕の内側がピリピリするなど)がありますが通常は数ヶ月で自然軽快します。剪除法の重大な合併症である皮膚壊死などと比べると軽微な合併症です。

腋臭症の治療といえば剪除法と教育をされてきましたし、実際に手術を行なってきた立場からすると、切らないのに効果あるのかな?長期的にはどうなのかな?と当初は懐疑的な思いもありました。しかし、実際にミラドライの治療を行うようになり、その懐疑的な思いは払拭されていきました。

剪除法の方が治療効果が高ければまだ剪除法をする理由もあるのですが、下手な外科医が剪除法をするよりもミラドライの方が効果面でも優れているように感じます。何より傷跡が残らず、術後の安静が不要な点はミラドライの画期的なメリットでした。

そのような訳で腋臭症や腋窩多汗症に対する剪除法の手術件数は次第に減っていき、最後に剪除法の手術を行なったのは随分と昔の話になってしまいました。

手術や治療というものは日々アップデートされていますが、基本的には先人達が築き上げてきた技術の改良の積み重ねです。このようにガラリと治療方法が変わってしなうエポックメイキングな出来事はそうそう起こるものではありません。

ミラドライの現状の欠点としては保険診療の対象とならないことです。なので保険診療ではまだまだ剪除法は現役の治療法です。しかしながら、効果や治療後の快適さを考えればミラドライ治療はお値段以上に満足度の得られる治療法だと思います。

当院は外科手術が中心のクリニックですが、腋臭症と腋窩多汗症に対してはボトックス治療とミラドライの二択です。

腋臭症や腋窩多汗症の方で悩んでいる人で、実際に医療機関で受診して治療を受けている人は2割程度との推察報告もあります。ミラドライが普及する前に比べて治療に対するハードルは圧倒的に下がっていますので、お悩みの方に「今はこんなに良い機器がありますよ!」ということをお伝えしたく今回コラムで取り上げてみました。

副院長 黒田大樹

#美容外科よもやま話シリーズ

この記事の監修者

副院長

黒田 大樹

OHKI KURODA

2005年に信州大学医学部を卒業し2年間の初期研修医を修了後、形成外科医局として全国で最大規模の昭和大学形成外科に入局。形成外科医として11年間研鑽を積んだ後に、美容外科を専門として現在に至る。